言語創作と創作世界(寄稿)

言語を作ってみよう~その1~

それでは気候や風土を考えてみましょう。
あなたが言語を作りたい世界は、西洋や日本などをベースにした世界ですか?それともそれらとは大きくかけ離れた世界でしょうか。

例えば西洋をベースにしたファンタジー世界を考えます。
西洋をベースにしていますから、創り出す単語は現実の西洋言語に対して一対一で翻訳していけば良いでしょう。
なぜなら、西洋の世界は、西洋の言葉によってそのまま既に切り出されているからです。
ジャガイモはジャガイモで言葉を当てて、甲冑は甲冑で対応する言葉を当てます。
魔法については現実より種類があって、その世界でも区別の必要がありそうです。では例えば、炎魔法と氷魔法にそれぞれ単語を当てることになるでしょう。

実際に単語をどう名づけるかの規則は様々です。ここでは一例に留めておきましょう。
分かりやすくて簡単なのは「もじり」です。並べ替え、置き換えなどの暗号文の作り方と似ています。
例としてはグロンギ語があります。仮面ライダークウガに用いられていますが、知らない場合は調べてみましょう。

では、既存の文化を丸ごと使うのでは無い場合を考えます。
まず環境が分からない事には言語を作っていくことが出来ません、ここから考えていきましょう。なぜなら前項で述べたように、言語と風土は不可分だからです。
言語の発祥した地域は温暖ですか?寒冷ですか?湿潤か、乾燥しているか。辺りは山か、海か。魔法は一般的に存在しているか、などを考えてみてください。
そもそも住んでいる生命が人間とは限りません。人間か、人型亜人か、ケイ素生命か……など、この辺りも必要そうです。

その言語は、地域を離れて共用語のような使い方をされますか?例えば現代で言う英語のような、遠隔地でも知っておけば通じるような言葉ですか?
言語というのは、国や地域をまたいで使われるときは全て「権力」が付いて回ります。
話すと長い歴史の勉強になるので割愛しますが、例えば「日本の標準言語を英語にします」と言われたらどうでしょう?
はっきり言って面倒です。なぜなら、我々は既に日本語を母語として習得しているからです。(他言語がネイティブの方は、例を置き換えて補完してください)
既に母語を習得しているし生活するうえで不便が無い。ではなぜ英語を学習するかといえば「利益があるから」でしょう。
世界の中心的な国家は現在、アメリカ、それから中国の二国と言えるでしょう。特に前者はかつてほどの勢いはなくとも、未だに無視はできない力があります。
最先端の技術は英語で発信、取引は英語で行われる、そんな構図はかつてイギリスが植民地支配に伴う教育を背景に(一時期はフランス語が国際語としての立場を獲得するものの)勢力を伸ばし、そしてその後にアメリカが中心となったために作られました。
そして一度構図が出来上がると、先進国で英語のネットワークが産まれ、それに追いつこうとする途上国も英語を使うことになります。
これはかつてヨーロッパ圏の学術的言語だったラテン語、あるいは古代中国と国交のあったアジア諸国で学術的言語として用いられた中国語なども同様です。
日本国内に限った話でもそうです。
日本で標準語として使われる「日本語」は、在来の日本語から選抜されて作られ、そして教育を施していくことで作られたものです。
目的は「日本全国から集めた兵士たちに、一様の命令で正しく全体に伝える」ためです。これも国家という権力の力が働いています。
ある種の強制力があって言語は幅広く使われるというのは、大きな規模で言語を創作する場合には重要となるでしょう。

その文化圏にはどんな神話や伝承がありますか?
神話や伝承というのはその文化が発祥した地で、原初どんな暮らしをしていて、何が起きて、何を教訓としていたかを記したとても貴重な資料です。
逆にそれを考えるというのは、文化圏の暮らしの形を考えていくという行為に他なりません。
現実を例に取ると、世界中で通用するのが「竜」です。
この竜というのが神話で討伐されるとき、多くは治水工事が行われたことを意味します。
王が竜を征伐して国を建てた、と書かれた場合には治水工事をして臣民をまとめ上げたことだったりします。
多神信仰として、例えば太陽の神はどんな存在ですか?
慈悲深い女神なら、その地域は太陽の温暖な日差しを浴びて植物がすくすくと育つのでしょう。
怒り狂う男神であれば、その地域は日照りに悩まされているのでしょう。
神話や伝承とは、科学の発展していない文化において自然現象を理解するための大きな助けとなっていました。あなたなら自然現象をどう解釈するか、思いを巡らせてみてください。

「音」が持つ意味も考えると良いでしょう。
“p”という音は破裂音と言います。どの言語でも比較的「突発的」な現象にはこの”p”を使うケースは多いです。
例えば”sh”の音は風切り音の「シュッ」という音で見られます。ではこの音は風に関する、あるいは速いものに関する語に使いましょう。
一つだけ注意して欲しいのは、あなたの思い浮かべる擬音が、本当にあなたの耳でそう聞こえているかです。
擬音から文字と音を当てることで、先ほど”sh”の例を作ったように考えることができます。しかし、あなたの耳で同様に聞こえているとは限りません。
もしかしたら、あなたには「ヒュッ」とか「ビュッ」の方がより正確な表現かもしれないからです。
その場合、風を意味する音は”hy”になるかもしれないのです。