錬金術を考える(寄稿)

皆さまお久しぶりです、CaibeRです。
今回もまた場所をお借りして、創作のネタになるような知識をお伝えできたらと思います。

さて、今回のテーマは「錬金術」です。
様々な時代、媒体の創作物でも書かれることのある錬金術ですが、詳細をよく知る人は少ないでしょう。
創作物での扱われ方は色々ですが、昔は一つの学問分野でもあった錬金術について追っていきたいと思います。

前回同様に、これは一つの考え方を示すものです。
錬金術自体にそもそも様々な派閥があり、また創作物においての扱いは無限と言っていいほどで、共通点は「物を作り出す」くらいです。
しかしこの一つの考え方が、皆さまの創作に選択肢を与えたならば幸いです。

化学の父たる錬金術

錬金術というのは最盛期には中世ヨーロッパで研究が進められてきた学問です。
狭義には「価値の低い金属を精錬し、価値の高い金属へ作り替える」という技術のことですが、広義には「物質や魂をより高次元の物、完全なものへ錬成する」という試みを示します。
こうした言葉の意味を踏まえて、この文章では「広義的な錬金術」について触れることにします。
それでは錬金術を身近に感じるため簡単に、錬金術が現代へ残した影響を見てみましょう。

錬金術の研究分野の中には「人の肉体を完全にし、不死にする」ことを目標とする分野がありました。そして彼らの研究は命の水(アクア・ヴィッテ、あるいはウシュク・ベーハーなど)と呼ばれるものを作る技術を生み出しました。
アクア・ヴィッテ、転じてウシュク・ベーハーはウイスキーの語源であり、これら蒸留酒の精製は錬金術が原点だと言われます。
そしてその蒸留技術は酒のみならず、物質の単離技術などへの道を開き、工業化学・分析化学の発展へと寄与します。

金からエリクシルを取り出すという研究も錬金術にはありました。
金から取り出すためにどうするか、その過程で「万物融解液」を探した錬金術師たちは硝酸・硫酸・塩酸などの溶解液を発見します。
エリクシルの探求には失敗したものの、上記三種の酸は化学分野では非常に多用される物質であり、これも現代の化学へ寄与しています。

他にもメッキの技術、磁器の生産に火薬の作成なども錬金術から派生した技術と言われています。
あるいはパラケルススは錬金術を研究し、その成果を医学に用いることで新たな治療法を発見しています。
そもそも錬金術という実験的手法は理論的体系に基づいて研究されてきました。彼らの生み出した技術に限らず、真理探究の手法そのもそもまた現代の研究に影響を与えているとも僕は考えます。

錬金術という理論体系

他の科学分野の例に漏れず、錬金術もまた論理的な手法によって研究が進められた分野です。
そもそも中世の科学研究は「神の作った世界を知ることで神へ近づく」という理由から進められてきたもので、それゆえにそれぞれの科学分野と神は現代の価値観からすると不思議な結びつきを持っています。

錬金術における完全を目指す姿勢は、すなわち神へ通じる為の手段でした。
元々キリスト教の教えでは、万物は神の手によって作られたものです。そして創造された世界の外側は神の領域であり、最初から存在した世界と言われます。
神に創造された被創造物はただ一つであり、それが特性によって分かれているだけで、有形のものは元は全て同じものだと考えます。
つまり錬金術における錬成とは、ものを創り出すのではなく、正しくは「作り替える」技術ということになります。
錬金術を題材にした漫画『鋼の錬金術師』でも等価交換の法則について言及されていると思います。錬金術はあくまでも、有から高次の有へ昇華させることを目的としているのです。

不思議なことに現代の物理学と大きな違いを持たないこの錬金術の理論ですが、由来は古代ギリシャ、ヘルメス哲学が元にあると言われます。
ギリシャと言えばデモクリトスの原子論が提唱された場所でもあり、当然の一致とも言えるでしょう。
根幹には「物質の原一性(ユニテ)」、その内容は「物質は一つであり、それはさまざまな形を取ることができ、さまざまな形でそれぞれ別々の性質を持つのである。」というものです。この大元の物質は第一質料などと呼ばれます。
またこれを言い換えると「万物が変化し続けても、何一つとして消滅することはない。」と解釈されます。先に述べた等価交換の法則とこれは同義です。

では、これらの単一の物質からできた有形のものは、いったいどうやって区別されるのでしょうか。その要素はアリストテレスの提唱した「三原質」と「四元素」です。

三原質はその物質の性質を表します。様々な物質を性質によって、三種類に分けたものになります。
硫黄・水銀・塩の三種ですが、名前のことはあまり意識しないでください。これは性質に付けた名前であって、それぞれの物質そのものとは関係がありません。

  • 硫黄 可燃性・腐食性などの能動的性質 男性的 熱 揮発性
  • 水銀 揮発性・可溶性などの受動的性質 女性的 冷 不揮発性
  • 塩  上記の二者を結び付けるエーテル体

ここで理解して欲しいのは、主に硫黄と水銀の二元論であることです。

更に四元素ですが、これは物質の状態を示すものです。
火・水・土・空気の四種ですが、これも文字通りではなく状態に付けた名前で、それそのものと無関係になります。

  • 水  可視  熱 液体
  • 土  可視  冷 固体
  • 空気 不可視 湿 気体
  • 火  不可視 乾 希薄

またこれらは
火→(凝結)→空気→(液化)→水→(固体化)→土→(昇華)→火
のようなループ(逆回りも可)で変遷するとされます。

全ての物質は第一質料を元に、上記の三原質と四元素の比で別の性質を示すとし、錬金術師はこの比率を操作することで物質を錬成しようとしました。
大まかに、これが錬金術の根幹を為す理論です。