ホワイトレター 1922年12月「短日の候、南天隠れ紅の差す」【リーフNo.06-0435】

この記事は株式会社アルパカコネクトの運営するPBW「ホワイトレター」第6回シナリオにおける、個人ごとのシナリオ参加結果『リーフ』を共有するものです。

【6】北区:歴史に刻め」ブランチ、【治水】タグの皆さん(以外にもいらっしゃるかも)との共通+個人での行動内容のリーフでした。



 誰もが明日を無事に迎えられることを願っている。
 死なないように。怪我をしないように。無事でいられるように。
 そんな願いをも掻き消しそうなほど、強い雨が降っている。
 そんな想いを潰してしまいそうなほど、水位が上がっている。

 まだ、雨は、止まない。

 強い雨の打ち付ける中、シェローニア=ヴァーミリオンは資金と資材、人手の調達に忙殺されていた。クロード・セニエが作成した放水工程計画を無事成功させるためには諸々が大量に必要となってくる。人手も、物資も、縁さえも。
 事前調査の上で必要となる物資のリストアップとToDoリストの作成、避難勧告区域の管理。こなしていくタスクよりも時間の方が早く過ぎていくような感覚を覚えるが、全力を尽くすしかない。
 トーリア・エスノギィメもまた、裏方としてサポートするために復興計画の調査や調整を進めていく。自分たちのチームがまとめてきた難民支援関係のプランに加えて、他のグループが進めている復興計画の資料のとりまとめ。全体像を把握すれば、何から手を付けたら良いかおのずと見えてくるだろう。
 全てとまではいかないが、一角は見えてくる。中々難しい道のりになりそうなこともまた、見えてくる。
 工部局窓口との情報共有や打ち合わせ等に奔走するフォークロアは、幸いにも祈り手集めについては苦労しなかった。避難所で待つしかできないからと難民や北区住民が祈り、中には法術が使われる施設まで赴く者もいる。北区支局やアルフライラの治水関係者を『これほどの大災害を抑え込んでいる英雄達』とする噂もプラスの方向に働いているようだ。
 祈りを促すのはフォークロアだけではない。ヤック=ツゥもまた、インフルエンサーで集めた人員の力も借りて祈り場を作り、多くの祈りが集まるよう広めていく。霊障による降雨を払いのける為の祈りと聞き、賛同者が続々と祈り場へ向かって来ていた。
「試しに応援してみてくれ!」
 雨傘もまた、祈りや寄せ書きなどの応援をしてもらうことで局員の力が強まるのだと説明する。敢えて一段と明るく振る舞う様は祈る人々だけでなく、笑顔の子供たちも増やしていた。
「今のセレナーク河の水圧であれば、かなり広範囲の堤防が崩壊するでしょう」
 砲撃についてフク=シャチョーに知見を求められた地質学者はそう告げる。かの河の水位は高く、出口が出来たならば一気に水が流れ込む。それは残っている壁すらも壊してしまうだろう。距離を取って放水するにしても、いち早い退避が望ましいとのことだった。
 そのためのルートを模索するのはギャノンだ。ハザードマップなどの資料を照らし合わせ、放水後に使えそうか、そうでないかを判断する。現場で実際に見てみることも忘れない。資料上は使えそうなルートも、この長雨によってぬかるんでいたり、水位の上昇により放水後は危険だったりするのだから。
 そういった箇所は仲間達により深く掘ってもらうか、別の撤退ルートを探すか判断し、各々が慌ただしく準備を進めていく。
 ナジムは仲間から連携された場所を整え、同時に堤防破壊時に適した場所がないかチェックする。この遊水地への放水が最初ではないからこそ、より修繕する時間があるのだ。
 スキッパーを走らせるリュリュ=ソレイユは常の郵便配達の合間に晴天祈願と避難を依頼し、情報伝達や物資輸送へ奔走する。ミニー クーパーもまた、当日の遊水地や避難対象区域に対する立ち入り禁止と避難を手分けして伝え回っていた。
(アタシも、みんなの力になれることをするんだ!)
 局員たちによって作成されたマップを頭の中へ叩き込んだミニーは走る。悔いが残らないように、精一杯。
「船は無理そうね! 土地があるならスキッパー。それもきつけりゃこの身体で動けば良し! 行くわよ!」
 明るさを振り撒きながら桃 春蕾がスキッパーを走らせていく。船を動かすには水の流れが速すぎる――が、そんなものはポルタルにとって障害にもなりはしない。
 メレンテも軽い足取りで雨の中を駆け、浸水や避難の状況を確認する。そこまでひどい浸水状況ではなく、床下浸水程度の場合もあるが――今後はどうなるかわからない。家の様子を見にきた住民を避難所へ促す傍ら、堤防の水漏れ箇所を見つけたメレンテは瞳をすがめた。
「――上がった!」
 アムルタートは信号弾を視界に認める。双眼鏡で見えたそれと地図を照らし合わせ、観測結果を迅速に共有する。どこから上がるかもわからない合図を見つける為、いつだって気は抜けない。
 アルドゥイーノ・セルバンテスは難民の中でも動けそうな者や、列強工部局の者に協力を依頼し、よりリアルタイムな情報収集や避難誘導、人手として配置する。その折に少しばかり空気が張り詰めることもあったが、結果的には協力を受けながら、アルドゥイーノ自身は車両を走らせ人員・物資輸送に駆け回ることとなった。
 仲間たちへ協力者という人員を貸し出しながら、ヴァン・ライスは書類整理や手軽に摂取できる米料理の調理に奔走する。地味な仕事ほど仕事量は多く、料理とて作ってもあっという間に消えていく。これだけ沢山の人間が動いているのだと言う実感を感じる間も無く、ただひたすら動くしかない。
 ララ・アディーニもまた避難所における食事の質を高めようとするが、北区避難民すべてに行き渡るほどの食糧は買い付けが難しい。経費も馬鹿にならないのだ。こればかりは行政府料理長としてもどうしようもないらしい。
 しかしそれならばそれで、別の方法を模索しなければ。ララは雨の寒さに負けぬよう、限られた食糧で温かなものを作るために料理長とアイディアをひねり出す。
 処置する内容によって対応場所をテキパキと分けたアネモネ チャルマーズは、こまめな休憩を取りながらも怪我人が来れば立ち上がり、次に座るときには根を詰めがちな作業者を誘って――半ば拉致に近いが――共に休憩をとっていた。少しでも英気を養い、余裕のある状態でことに望まなければ他人を救うことは難しいから。
 拠点で怪我人の手当てをする者がいる一方で、現場を駆け巡って治療を行う者もいる。テオドルス・デ・スヴァンは流されかけていた河川工事中の作業員を安全な場所まで連れていくと、腕の切り傷を見て応急処置キットを掴んだ。
 傷口を水筒の真水で洗い、清潔な布で止血する。後のことは怪我人の同僚に任せ、テオドルスは再び走り出した。エステル・アークライトのようにとはいかずとも、少しでも自分にできることをやっていくのだと。
 エステルは北区の郵便拠点内に医療場所を展開する。必要なのは清潔さ。いかに手当てをしても、術後が芳しくなければ健康を損なうのだ。支援物資は月鈴やアルサイたちを通じて急ピッチで補充されていく。
 同じ施設内ではジョナサン・C・マツナガもまた、外部向けの支援物資受け渡し窓口として手伝っていた。鉄道が止まったこともあり、物資は全体的に不足している。なればこそ、過不足なく、要求を理解して行うべき作業だ。要求数の多い物資は事情を聞き、調整することも忘れない。
 蒸気科学ラボのトレーラー内ではテオドール・グロートが局員たちの持ち込む事前調査の結果や資料の統括など担うクロードの補佐を行なっている。
 極限まで溜まりつつある疲れ、必要最低限の寝食に顔から表情は抜け落ち、常の辿々しい言葉遣いさえも見られない。言葉を考え、選んでいる暇などないのだ。
 それでも。
「少しお酒行ってきていいですよ」
 クロードには息抜きを促すテオドール。過労が祟ってのちに倒れるなどあれば、それこそテオドールが過労死しかねない。いや絶対する。それなら今、一時的に抜けてガス抜きしてもらう方がよほど良い。
「未来の話は現実(いま)でないとできませんからね」
 マルデ・ハンバーグは避難所に留まる住民へそう語りながら、住所等の情報や避難所へ至るまでの被害状況などを聞いて回る。とはいえ、特に大きく被害が出たのは遊水地となった3箇所程度のようだ。
 併せてこれまで北区で過ごしてきた中感じていた不便不満や要望なども収集し、マルデは別の住民へ同じように話を聞く。これらを資料とすれば、復興時の優先順位や、被害状況の振り返りにも役立つことだろう。雨が止み、地が乾くまでに少しでも体勢を整えておかねば。
 サンバヨン=バリオーニは今日の祈りを捧げる。来たるべき日まではあともう少し。その日の為にサンバヨンは難民たちへも毎日の祈りをと頼んで回っていた。
「人の仕業なら対処できる。短い時間でもいいよ」
 誰もが不安を抱える中、祈るばかりの生活はできない。だからこそ少しずつ、祈りを積み重ねて行ってほしいと。
 他にも農家相互の助け合いを促したり、マルデの情報を元に嵐が過ぎ去った後の準備を進めながら、サンバヨンはイェールマウト山脈の立ち入り調査が解禁された件について、それとなく住民たちへ聞いてみる。しかし彼らも、特務局員が知る以上の理由は知らないようだった。
 この後を見据えた動きは他にも存在している。シャーリン・シュリュッセルは九輔幇のアルフライラ戦災難民支援委員会副主任『蔡・小儀』との会合を取り付けていた。基本的な事項は書面にて進めるが、やはり顔を突き合わせないといけないこともあるし、その方が話が早い事もある。レスポンスについてもまた然り。真水のキャパシティは今すぐに、という訳にはいかないようだが、水害後の清掃に必要な人手や、医療衛生関係の支援物資は提供してもらえそうだ。
 一方、放水地を訪れたグレシャムは怪しい所がないかと確認を行う。人の侵入形跡がないか、工事以外の作業跡がないか。この雨だから足跡は消えてしまったかもしれないと、霊視用の眼鏡をかけての調査だが、幸いと言うべきなのだろうか――これといって不審な点は存在しない。
(最後の遊水地はきな臭いんだっけ)
 そちらも見てみようかと足を運ぶものの、そちらも特になさそうか。異常がない事を確認することも大切だとグレシャムは確認項目について治水対策本部へ報告をあげた。
「ここは危ないですの。流されたら帰ってくることもできません」
 エリステル=T=フローライトが浸水状況を気にして戻ってきた住民たちへ声をかける。雨の弱まる気配はなく、うっかり足を滑らせれば最悪激流となった河に落ちるだろう。
 この辺りはどこも変わらず強い雨で、ぬかるむ箇所が増えている。そういった場所には気をつけるよう住民に言い含めて、エリステルは各拠点へも同じように情報共有へ向かった。
(何もなければ、それに越したことはないですが……)
 エニグマは緊急停止した鉄道の列車内部へと入り、乗員に確認して積荷を協力者たちと運び出す。無理せず、できる範囲で運べるものとそうでないものを選別する――という名目で、どんな積荷があるか調べていく。
 最も、これといって怪しい積荷は存在せず。名目通り、運べる積荷を外へ運び出し、一旦行政府へ送る流れと相成ったのだった。

 計画により定められた放水の日。
 この日も雨は強く。シェローニアは河川状況や放水作戦の進捗状況を忙しなく確認する。放水実施要員への支援物資も忘れてはいない。
「この辺りは危険です! 避難所へ退避してください!」
 リュリュは遊水地となる周辺をスキッパーで巡回し、人々へ声をかける。家や田畑が心配で今日も見に来てしまったのだろうが、このままでは放水に巻き込まれかねない。
 遊水地ではコーフ・ソータッツが大型ウォーカーを操作し、掘りの甘い部分を手直しする。連日の雨が水を溜めるのは河だけではない。土砂崩れにも警戒して土壌を積んでおく。
 小型のウォーカーを扱うラヴィニア=プロフェシーは砲門の積み下ろしを終え、射角の確認までして作業過程を記録していた。今後の資料として役立つだろう。
 砲門はギャノンがこの日のため、1日に1回必ず整備点検をしていた。万が一などありえない。
「確認作業も準備も、順調そうですね……」
 双眼鏡で局員らの様子を確かめた真実 眞那子。占いでは遊水地周辺の確認を念入りにと出ていたが、仲間たちがこのようにチェックをしてくれているのならば安心だ。
 やがて雨に視界を邪魔されながらも、トン カラトンの撃った砲丸が河の水を誘導し始める。地質学者の言った通り、水圧で堤防が壊れるのを見たトンは、大声を出して大急ぎで撤退。今後の計画と復興に大きな支障をきたすほどではない。
 水位をさらに下げるため、2回目の放水を決めた一同は、彼らの努力を嘲笑うかのようにふり続ける雨空に視線を上げた。

 北区の状況を鑑みれば、誰1人として暇だと言える者はいない。施設にて準備を進めるパラディ=グリモワールもまた然り。そのような状況ではあるものの、少しでも手が空いた公社職員や行政府、難民や北区住民までもが施設を訪れて祈ってくれている。聞けば、ここまで来られない避難所の難民なども祈ってくれているようであった。
「今回の放水も、必ずうまくやってくれます。そのために沢山手を尽くしていますから」
 だからこそ、最後の1ピースを嵌めるために祈って欲しいのだとパラディもまた人々へ説く。信じるも信じないも難民たちの心次第。どうかその心が祈りへ向けられますようにと強く願う。
 やがて””””その時””””が来たならば、パラディはその中の誰よりも熱心に祈りを捧げるだろう。

 ――悪へ一矢報いるために。
 ――想いを全て届けるために。
 ――晴天をこの目で見るために!

 ユーヴィン・ヤサンが気象学会に出入りして溜めた知識も、霊障を前にしては空を睨みつけるしかできない。
 しかし雨の弱まりを感じ、テオドールの龍雲招来がさらに雨雲を押し出す。堤防が崩れる前に集まりそうな雲へ、さらにユーヴィンが龍雲招来で押し返す。そうしてとうとう堤防は崩れ、遊水地から溢れることなく水は溜まっていった。
 2回目の放水でかなり水位が下がったことを見てとったクロード。しかし法術と呪術による晴天はほんのわずかなもので、すぐに雨は降り始める。放っておけば再び水位が上昇する――となれば、できるだけ計画遂行中の内に水位を下げられるだけ下げておきたい。
 ガラガラドンは慣れた手つきで砲門を準備する。この日までに使い方を教わり、他のガードや砲撃者へ徹底的に使い方を叩き込んだのだ。教えられるまでに至ったガラガラドンに手順の迷いはない。
 撃ち間違えたら死にかねない。こんなところで、誰一人として死者など出すものかという気持ちの表れであった。
 3回目の放水に向け、コージィ=ソータッツは協力者の術師達と連携して龍雲招来を発動させる。
 感じるのはわずかな綱引き。雨であれという霊障の力と、晴れになれという龍雲招来の力。30分にも満たない晴れた時間に、とうとう3つ目の遊水地へ放水が始まったのだった。